煎り上手

コーヒーが好きだ。
しかし残念ながら旨いコーヒーにはなかなか出会えない。たまに外で飲んでも、大抵ガクっとくる。
先日久ぶりに、豆を何種類か買ってきて、家で挽いて淹(い)れてみた。
まずくはないが、旨くもない。香りも薄いし、コクもない。
豆の鮮度が悪いに違いない。
こうなると、無性に旨いコーヒーが飲みたくなってきた。そしてしばらく考えた後、一つの結論に達した。
「自分で豆を煎るしかないやろ!」
悪い病気が始まった・・・。
嫁が「またか」という顔で笑っている。

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ネットで調べてみると、生豆は簡単に買えることが分かった。
後は煎る道具だが、何万円もするものから、ゴマを煎る網のようなものまで色々ある。
その中で眼に留まったのが、発明工房の「煎り上手」だ。
どこが気に入ったかというとズバリ、「煎り上手」というベタなネーミングだ。他社製品に「いるいる」というのがあってどちらにしようか迷ったが、こちらにした。冗談はさておき、早速何種類かの生豆と一緒に購入した。
定価は5460円と結構いい値段である。はっきり言って高い。需要が少ないので仕方ないとは思うが、もう少し安ければ有難い。p3060015


「煎り上手」のドラム(本体)はアルマイト製で、それに取っ手が付いており、握る部分は木製である。

一見単純な構造だが、上部の大きな穴から熱せられた空気が抜けると同時に、前後の小さな穴から新鮮な空気が吸引されるという循環作用でドラム内が一定の温度に保たれ、ドラム自体の熱と熱風の循環による熱の両方で焙煎するという「熱力学を駆使した一品」だそうだ(何のことやら・・・)。

使用法もシンプルで、本体上部の丸い穴から生豆を入れてガスコンロにかざし、フリフリしながら焙煎するという単純明快なものだ。

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底のV字の形状は、フリフリしたときに豆が程よく撹拌され、煎りムラがでないようにするためのものらしい。
また前面のフタは取り外しができ、掃除がしやすくなっている。
能書きは分かったが、豆を煎らないと始まらないので、早速実行することにした。その手順は
①ガスの火を中火にして、1分ほど本体を暖め、上の穴から生豆を投入する(最大50g)。
②火から少し離して振り続けていると、青白かった生豆が黄色から薄茶色になってくる(3分位)。
③火に近づけさらに振り続けると、「ポンポン」という音と共に豆が弾けだし、しばらくすると音が止む(このあたりから、上の穴から豆の色を確認しながら振る)。p3060024


④さらに振っていると今度は「ピチピチ」という、先ほどとは違う音がして豆が弾け始める。頻繁に上の穴から豆の色を確認し、思った色になれば素早くざるに移して、うちわ等であおいで冷却する(余熱で焙煎が進むのを防ぐため)。
これで出来上がりである。ポイントは火から下ろすタイミングで、最後の方は秒刻みで色が変わっていくため、遅れると真っ黒になってしまう。上の穴が小さく暗いので、中の豆の色の確認がし辛く、思った煎り加減にするのはなかなか難しい。
また、コンロの周りが豆の薄皮だらけになるのと結構煙が出るので、嫁の停止命令が出ないよう注意が必要だ。p3060029 p3060032


下の写真が初めて煎った豆だ。
青白かった生豆が茶色いコーヒー豆になったときは感動した。
自分で煎ってみて驚いたのは、煎ってすぐの豆はコーヒーらしい香りがそれほど強くないということだ。
2、3日置いた豆の方が、強い香りを放つ。しかし挽いて飲んでみると、煎りたてには何とも言えない新鮮な芳香があり、それはそれでとても美味しい。豆を煎った者だけが得られる特権だ。豆を煎った後は、父からもらった手動式のミル(34年前の日付がある)でゆっくりゆっくり豆を挽いていく。そうすると心がだんだん落ち着いてくる。
そしてペーパードリップで淹れて味わう。
至福の時である。
おっと、嫁にも淹れてあげるのを忘れてはいけない。p3060035


今までの人生で本当に旨いコーヒーに出会ったのは2度だけ。
学生時代にアルバイトをしていたコーヒー専門店のコーヒー、そして父が淹(い)れたコーヒーだ。どちらも香りやコクが素晴らしく豊かで、一度飲んだら忘れられない。
父の淹れたコーヒーは身内のひいき目ではなく、本当に旨かった。故郷に帰ると淹れてもらって飲むのが楽しみだったが、そんな父も今はもういない。父に僕が自分で煎った豆で淹れたコーヒーを一度飲んでもらいたかった。
不味くてもきっと、「おいしいよ」と言ってくれたはずだ。

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男の無駄遣い